れじぇんず11 白い鳥の思ひ出2



2005.7.20 18:50
塾に行く長男に、夕食を出しているところに、次男がスイミングから帰って来た。
”お母さん!タイヘンだ!ツルみたいな鳥が弱ってるの。来てっ!!”
(この間も、ムクドリを見て、”あのツルみたいなのはなに?”と聞かれたので ”ツルみたいなの”と言われても、疑いの心がむくむくだ)
黄色い満月がどっかりと浮かんでいる。
連れられて児童公園に行くと、ヒイラギの生垣の上に、白い大型の鳥がたたずんでいる。
なるほど、コサギの巣立ち雛のよう。これならツルに見えてもしかたないかな。

コサギっ子は、右の翼をやや下げて、不安げな目でこっちをちろりと見る。
目の感じは生気があるが、その姿は、かなり疲れているようにも・・・
”コサギの巣立ったばかりの子供だね。けがをしてるし、水のあるところから
ずいぶん離れているから、おなかもぺこぺこで弱ってるみたいだよ”
”え〜;連れて帰ってあげようよぉ”次男はちょっと涙声
その時、まだ明るいので、公園に残っていた親子連れが集まってきた。
その中のガキンチョが、にんまり笑って、水鉄砲をコサギに向けた。
身をすくめるように、少し移動するコサギ。
こんのガキ〜!たち悪ぃな!叱ってやろうかと思った瞬間
”こわがってるこどもにひどいことするな!!”、次男が怒った。
自分より少しだけ大きなおにいちゃんに怒られたのが効いたのか、かたまるガキ
”×ちゃ〜ん、ダメでしょ〜〜”と言って、母親らしきのが恥ずかしそうに、
ガキを引っつかんで、逃げるように引きずって行った・・・
エライぞ、ぼく2!すっきりだ(ダークサイドぶくぶく)

”ねぇ、やっぱり、連れて帰れないかな。飛べないみたいだし・・・”
懇願されても、捕まえるためには追い掛け回さねばならないだろう。
そうすれば、ますます命を削ってしまう・・・
”ここで見ていると、親鳥が近づけないよ”その場を離れるように言ったけど、
私の素振りから、次男もうすうす感じたようだ・・・死んじゃうの?
”羽が折れてるかもしれないから・・・死んじゃうかもしれないよ。巣立つ時、
死んでしまう子は、自然では多いんだ。かわいそうだけど・・・”
しばらく話が途切れた。うつむくじなん。ちょっと間があり
”でも、そのままにしておいた方がいいんだね・・・人が寄るとおびえてたから・・・
さいごまでおびえてたらかわいそうだものね・・・”声がだんだん小さくなる次男
”ぼく、先に帰って、自転車置いてくるよ!”、何かを吹っ切るように、自転車を走らせていきました・・・


2005.7.20 23:05
夫が帰宅。ご飯を出しながら、夕方の話をすると、いつものようにご飯をかっこむと
”ぢゃ、行くか。”、”はいいぃ!?”
公園に行ってみると、さっきと同じ場所にいるのが、街灯に照らされて浮かび上がってる。
右の翼は、ますます下がっているように見える・・・
近づくと、目をちらりと動かしたけど、動かない。
夫は反対側から近づくと、すすすっと移動。でも、後ろにも私がいるので、
コサギっ子は、ヒイラギの葉の下の方にこそこそと移動していく。
”怖くない、怖くないから、こっちにおいで”(ついぞ最近、聞いたことがないような
優しい声をかけながら、夫がヒイラギの枝の中に手を入れる、”あだだ;”
そら、痛いわな;四方ちくちくだし;
じわりじわりと身をよじるようにかわしていく
手をのばすと、遂に歩いて逃げ出した。よたよた〜〜〜
ヒイラギの隙間に出たところで、夫に抱っこされる形で捕まっちゃいました
でも、大暴れしたり、つついたりはしませんでした。
公園から帰る時、家路を急ぐ人に何人もすれ違う。アヤシい!絶対アヤシい
見慣れぬ白い鳥を持ったおっさんと、虫取り網を持ったおばさん
急ぎ、かつ、ダンボール置き場で、具合のよさそうな箱を漁りつつ逃げ帰る〜;


大小二つのダンボールを拾って帰宅。箱を組み立てる間、部屋にコサギっ子を置くと
当然の事ながら、逃げました!事もあろうに、夫のパソコンゾーンに!
通り名”魔窟”と呼ばれる畳1枚分の、おもちゃだらけのスペースの、しかもよりによって
サーフボードの裏に入り込んだ;
”ちょうどいい、今のうちに支度しよう”(なぜ、そんなに平然としてられるのだ?夫)
箱を組み立て、新聞紙を敷き、深めの入れ物に水を入れ、準備おっけ〜
あれ?夫、どこに行ったのよ?
コンビニの袋を提げて帰って来た。なんだぁ?
”魚肉ソーセージ、食うかな?”
ばっかぢゃねぇの!!何を考えてるんだーーーっ!
”人間の食べ物はあげると野生動物の体にはよくないんだって!やめなさい!!”
”え〜、お客様を歓待したかったのにぃ〜”
とりあえず、”魔窟”から連れ出され、大き目のダンボールにないない
野毛山動物園の開園時間と、飼育係さんの電話番号を調べて、今夜はおしまい。
捕まえるのには、わずか5分ほどだったけど、この時すでに2時近く;
明日は、長男が陸上の大会の応援に行くから、明朝は5時半起きなのに・・・;
お母さん、ぐったりだわ;
おとなしいコサギっ子
ふわっと軽い
お水の入った箱にしまわれるコサギっ子。
暗い方が、いくらか落ち着くのでは・・・


2005.7.21 5:30
”おばよ〜”長男が起きだして来た。うぅ;眠い・・・
トーストをかじりながら、昨夜にはなかった箱に気が付くぼく1くん
”お父さん、新しい掃除機買って来たの?”
”コサギって知ってる?白鷺とも呼ばれてるけど。”
”!日本一キレイって言われる、姫路城が白鷺城って言うよね!”
”あん中に、けがした白鷺が入ってるんだよ”
普段は、生き物にはそれほど関心のない長男が身を乗り出した。
”ね、見てもいいかな?そっと覗くからサ”
閉じたダンボールをそっと開けると、ちょっとびくっとしたけど、落ち着いた様子の
コサギっ子の姿が現れた。きょろきょろしている
口から生まれたようなしゃべり男の長男が黙った。
”・・・キレイだねぇ。形もだけど、目がすごくキレイだ・・・”
黄色に澄んだ黒い瞳は、ゲーム小僧をも魅了した様子。
出かける時間が来なければ、もっと見ていたかった様子の長男が出かけて行った。

2005.7.21 7:30
少し寝なおして起きると、さっき、少し開けた隙間から、目だけを覗かせて、こっちを見た
興味津々にも見える。こどもな分、人間への恐怖よりも、興味が勝ったように思えた。
次男を起こしに行くと”夏休みなんだから、もうちょっと寝る〜”
”ふ〜ん、右の羽をけがしたお客さんがいるんだけどな〜、残念だなぁ、
もう、動物園に連れて行かないと、お母さん仕事に間に合わないから、ぼく2くんは見ないんだね〜”
がばっと跳ね起き”えっ!つかまえたの!?いるの?生きてるの!?”
運ぶために小さい方の箱に穴をあけて、移し変えた穴から、ずっと覗いている次男
”あきらめてたんだよ、でも、動物園の獣医さんにみてもらえれば、元気になるかもしれないね!
飛べるようになったらいいなぁ。こっちに帰ってくるといいなぁ♪”と、もうご機嫌
寝転がって見つめる次男を、箱から見るコサギっ子。この場面を撮らなかった自分を
後悔するのでした・・・
箱の隙間から、外を覗く
興味深げに目が動く
移動用の小さな箱にしまわれるコサギっ子。
結局、この子を触れたのは3回、夫だけでした。
開園1時間前に電話をすると、飼育係さんは快く引き受けてくださるとの事。
箱を持って、いざ出発。(ぺードラの私は電車で連れて行くのだ;)
うちを出てすぐの所に、生き物大好き幼稚園児のこーちゃんとママが立ち話してる
折角だから、見せてあげると、”このとり、ずっとこうえんにいたよね”
えぇ〜!!
”確か、3連休の初日からいたと思います。だんだん、力がなくなっていくみたい
だったんですよ”とママ。
これは大変だ!駅に向かって足を進めたのでありました。ちゃんちゃん

ラッシュ時間を過ぎたので、それほど混み混みではなかった車内だけど、
突然、箱の穴から、コサギっ子がにゅっと顔を突き出した!
すると、周囲から、小さな声で”鳥だ”、”鳥だ”・・・*>_<*
そっと、くちばしに手のひらをあてると、静かに首をひっこめました。はぁ・・・
この後も、中央図書館前で信号待ちしている時にも、にゅっとまた;
両側にいた、おっさんと、おねーさんも、ずさっと驚いていました”鳥だぁ!”
あと少し、この坂を上れば動物園だ。頑張れ私ぃ
気温がだんだん暑くなってきたからか、箱の中でごとごと動き出した。後ちょっと待ってぇ〜

動物園に着くと、飼育員室に通された。穏やかな顔の飼育員さんが対応して下さった。
垂れてしまっていた右の羽も、どうやら折れてはいなそうだとの事(後でしっかり
調べてくださるそうです)
絶食で痩せてしまっているけれど、できるだけのことをして、元気になったら
相模川辺りで放鳥してくださるそうです。
”連絡はできませんが、見つけてくれたお子さんに、元気になるよう頑張るからね
とお伝え下さい。”という、傷病鳥獣担当の方の言葉が温かく感じられました。

預けた後、メールで”預かってもらえたよ”と夫に送ると、
”ダメだったら、うちの子にしたのになぁ”だって。
ほっとしていたようですが、
うちの中に、ちっこいのがぺてぺてしてるのに、ちょっと憧れてたかも;


バイト先に、”もしかしたら、少し遅れるかもしれません。まだ(動物)病院なんです”
と電話した。”身内が急に入院することになり、付き添ってきたので”と
もちろん、かっこ内は声に出していません。これで本当に遅れたら、ちょっと
マズかったかもですが・・・^o^;
間に合ってよかった・・・っていうか、たまたま、午後からの仕事の日で本当によかった;
あぁ、眠い・・・夕食作った途端、急速に眠気が襲ってきました

飼育員さんの経験と、コサギっ子の生命力と、生きたいという強い意志に期待します。
どうか、元気に羽ばたいて行ってくれますように・・・
暖かく、ふわっとやわらかく、はかなげに軽いコサギっ子を忘れません。



今回はコサギを捕獲し、保護(と言うにはおこがましい)ましたが、
基本的に、私は、野鳥の雛を拾う事、いや、一人でいるのを追いかける事も
反対です。考えてもみれば、もし我々が、得体の知れない巨大生物に追いかけられ、
その上、体に触れられたらどうします?どう思います?
緊張と恐怖と、必死に逃げる時の疲労で命が削り取られるでしょう・・・
そして、親鳥が、近くで見守っていても、なすすべもなく追われる我が子の
悲しい姿を見せつけられる事になるでしょう・・・
大抵の場合、落ちた雛の近くには、親鳥が心配して見ているものです。
かわいそう、かわいいという気持ちは、痛いほど分かります。
でも、それらをぐっと抑えて、本当の親に任せるべきだと思います。
それでも捕まえる時は”雛泥棒”かつ”雛殺し”の汚名を着る覚悟をして欲しいです。


今回は、営巣地からも、水場からも離れた児童公園にいたこと。
かつてその公園で、一度もサギなどの水鳥が降りたのを見たことがなかったこと。
(こどもたちが小さい頃は、食事時以外は、ずっと、その公園にいたこともあるので、経験上)
親の姿、気配が全くなかった事。
羽を下げ、弱っていた事を考え、朝一番で動物園に連れて行く事を前提に捕獲しました。
それでも、やはり、ちくちくする呵責は消せませんでした。





2005.8.27 13:10 うれしい後日談
 弱らせただけだったのでは、とどめをさしてしまったのでは、
やはり、自然のままに任せるべきだったのでは・・・と、うじうじ。
でも、どうしても気になり、お忙しいのを承知の上で、動物園に電話で問い合わせました
すると!うれしい回答が♪
”お預かりしたコサギは、栄養失調だったものの、順調に回復し、8月21日午前
東京都の浮島公園にて放鳥しました。元気に飛んでいったそうですよ”
うれしくて、何度も何度もお礼を言ってしまいました。
涙声になってしまった私に、傷病動物担当の飼育員さんは
”よかったです。私もうれしいです”と言ってくださいました。
なんて、温かい言葉でしょう・・・本当にありがとうございます。
これで、”白い鳥のおもひで2”は完結になりました。
回復させて下さった野毛山動物園のスタッフの皆様、
押し付けがましい、勝手な長文を読んで下さった皆様に感謝いたします。

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